2011年12月03日
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国際政治経済学入門
【国際政治経済学入門】大恐慌時代の米国よりも深刻な日本デフレ(※米国は1929年、日本は1997年をそれぞれ100とする指数。米大統領経済諮問委員会、総務省統計局データをもとに作成)
紙幣増刷
公共投資
景気を刺激せよ
じゃあな
【国際政治経済学入門】大恐慌の米国より深刻な日本のデフレ
【サンケイ エクスプレス 2011/11/24】
若い人たちにはピンと来ないかもしれないが、60歳以上の世代にとって1930年代の米国の大恐慌と聞いて、即座に頭に浮かぶのは40年に制作されたジョン・フォード監督の「怒りの葡萄」のシーンである。39年に発表されたジョン・スタインベックの同名小説の映画版で、失業者とその家族がどこまでも続く群を成してカリフォルニアに向かうが、大恐慌の荒波からは逃れることができなかった。
凄惨(せいさん)な大恐慌の風景に比べると、今われわれ日本人が直面している状況はマイルドに見える。だが、「デフレ不況」という視点でデータをもとに、30年代の米国と今の日本を比較し直してみると、恐るべきことに今の日本のデフレは大恐慌時を上回る重症であることがわかる。病人で言えば、大恐慌時の米国は劇症肝炎で死にかけたが時を経て回復したのに、今の日本は慢性肝炎で日常生活は可能だが、日を追うごとにわずかずつ体力が弱っていく。しかも治る見込みがない。
■ニューディール政策の効果
グラフを見てみよう。経済全体の総合物価指数である「デフレーター」の推移を追うと、大恐慌の米国は29年から4年間で25%下落したあと、14年間もかかって43年に29年当時の水準に戻った。賃金水準は33年には29年比で45%も落ち込んだが、33年に登場したF・ルーズベルト政権による「ニューディール」政策を受けて34年から徐々に回復してきた。賃金は41年には29年水準を上回っているところからすれば、12年間で大恐慌から抜け出たといえる。41年12月の日本軍による真珠湾攻撃を受けた米国の第二次大戦参戦に伴う軍需が決め手になったという見方もあるが、真珠湾前に回復が顕著になっている。公共投資を柱とするニューディール政策の効果は明らかだ。
今の日本はどうか。デフレーターの下落角度は極めて緩やかである。ところが、97年から14年目の今年は下落速度が早くなり、デフレは明らかにこじれている。2010年のサラリーマンのひと月当たり可処分所得は1998年以降、前年比で平均1%、4770円ずつ下落し、97年に比べ6万6700円、13.4%減った。12年間で復調した大恐慌のアメリカよりも、日本はなだらかだがどこまでも下落が続く。
ここで思い起こすのは、「茹(ゆ)で蛙(がえる)」の寓話(ぐうわ)である。蛙は常温の水を入れた鍋に入れられ、時間をかけて熱せられてもじっとしている。するといつの間にか茹で上がってしまう。日本のサラリーマンは蛙と同じように、少しずつデフレ水の温度を上げられているために、何かおかしい、懐具合がどうも悪いな、と思いつつも、そんな日常に順応してしまう。昼食をコンビニ弁当に切り替え、割安な社員食堂でラーメンをすすり、夜は外での同僚との飲み食い回数を減らす。
自殺者は年間3万人を超え、新卒の半数近くが相変わらず職を見つけられないが、大掛かりな抗議デモもストライキも起きない。社会保障制度が社会全体に安心感を与えているのだ。生活保護者の数は増え、高齢者は年金ライフを楽しんでいる。そんな背景が作用しているのだろう。国家非常時ではなく、平時だ、ただ少し景気が悪いだけだ、という程度の認識しかない政治家が多数を占めている。国会では東日本大震災からの復興に向けた2011年度第3次補正予算案に続き、復興増税法案が月内成立の見通しだ。さらに、野田政権は消費税率10%への引き上げを強行する構えだ。
■国全体が「茹で蛙」に
復興債償還財源に使う所得税の臨時増税は25年と長期にわたる。増税期間の引き延ばしの結果、1世帯当たりの所得税年間負担増は薄められ、財務省の試算では年収500万円の場合で1600円、800万円だと7360円という。野田佳彦内閣と民主、自民、公明の3党は「月にならすと負担額はコーヒー1、2杯分にすぎない」と納得したわけだが、甘すぎる。
経済とは先行きの予想で決まる。個人や企業は、明日、1週間後、ひと月後、あるいは来年、数年後を見越して、今消費するか、無理してでも貯蓄するか、投資するかを決めるものだ。
たとえ、わずかでも継続的なマイナス要因が延々と続き、付け加わるなら、経済活動は萎縮する。デフレ予想が続くならなおさらだ。デフレで所得が毎年着実に減っている上に、増税などで可処分所得はさらに減る。そうなら、家計は消費を、企業は投資を控える。カネは動かず、雇用は縮小の一途をたどる。税収は名目の国内総生産(GDP)の伸びに比例するのだから、増税によるデフレ効果が大きければ所得税収も法人税収も減る。サラリーマンどころか、日本国全体が茹で蛙になりかけている。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
◇
≪大手町Newsカレッジ≫
講座番号 :3-4
講座タイトル:ドル基軸体制はいつまで続くか?
米国オバマ政権と連邦準備制度理事会は景気2番底回避のためには、ドル札の増刷を続けるしか方策がない。言い換えるとドル安政策の堅持である。その結果、基軸通貨ドルは脆弱になり、国際金融体制は崩壊するとみる向きもあるが、筆者はまだまだドル体制は続くとみる。円の日本没落はあっても、米国ドルは国際金融市場の中心であり続けるだろう。
講 師 :田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞特別記者
2011年12月14日(水) 19:00~20:30
産経新聞本社 会議室(東京都千代田区大手町1-7-2)
3000円(講座申し込みのうえ事前に郵便振替でのお支払い)
申し込み http://www.newscollege.jp/
◇
【問い合わせ先】
産経新聞社カレッジ事務局 (http://www.newscollege.jp/inquiry/)
〒100-8077 東京都千代田区大手町1-7-2
TEL:03-3243-9828 FAX:03-3279-6342
E-Mail:college@sankei.co.jp
10:00~17:00(土、日、祝日を除く)
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【国際政治経済学入門】大恐慌の米国より深刻な日本のデフレ
【サンケイ エクスプレス 2011/11/24】
若い人たちにはピンと来ないかもしれないが、60歳以上の世代にとって1930年代の米国の大恐慌と聞いて、即座に頭に浮かぶのは40年に制作されたジョン・フォード監督の「怒りの葡萄」のシーンである。39年に発表されたジョン・スタインベックの同名小説の映画版で、失業者とその家族がどこまでも続く群を成してカリフォルニアに向かうが、大恐慌の荒波からは逃れることができなかった。
凄惨(せいさん)な大恐慌の風景に比べると、今われわれ日本人が直面している状況はマイルドに見える。だが、「デフレ不況」という視点でデータをもとに、30年代の米国と今の日本を比較し直してみると、恐るべきことに今の日本のデフレは大恐慌時を上回る重症であることがわかる。病人で言えば、大恐慌時の米国は劇症肝炎で死にかけたが時を経て回復したのに、今の日本は慢性肝炎で日常生活は可能だが、日を追うごとにわずかずつ体力が弱っていく。しかも治る見込みがない。
■ニューディール政策の効果
グラフを見てみよう。経済全体の総合物価指数である「デフレーター」の推移を追うと、大恐慌の米国は29年から4年間で25%下落したあと、14年間もかかって43年に29年当時の水準に戻った。賃金水準は33年には29年比で45%も落ち込んだが、33年に登場したF・ルーズベルト政権による「ニューディール」政策を受けて34年から徐々に回復してきた。賃金は41年には29年水準を上回っているところからすれば、12年間で大恐慌から抜け出たといえる。41年12月の日本軍による真珠湾攻撃を受けた米国の第二次大戦参戦に伴う軍需が決め手になったという見方もあるが、真珠湾前に回復が顕著になっている。公共投資を柱とするニューディール政策の効果は明らかだ。
今の日本はどうか。デフレーターの下落角度は極めて緩やかである。ところが、97年から14年目の今年は下落速度が早くなり、デフレは明らかにこじれている。2010年のサラリーマンのひと月当たり可処分所得は1998年以降、前年比で平均1%、4770円ずつ下落し、97年に比べ6万6700円、13.4%減った。12年間で復調した大恐慌のアメリカよりも、日本はなだらかだがどこまでも下落が続く。
ここで思い起こすのは、「茹(ゆ)で蛙(がえる)」の寓話(ぐうわ)である。蛙は常温の水を入れた鍋に入れられ、時間をかけて熱せられてもじっとしている。するといつの間にか茹で上がってしまう。日本のサラリーマンは蛙と同じように、少しずつデフレ水の温度を上げられているために、何かおかしい、懐具合がどうも悪いな、と思いつつも、そんな日常に順応してしまう。昼食をコンビニ弁当に切り替え、割安な社員食堂でラーメンをすすり、夜は外での同僚との飲み食い回数を減らす。
自殺者は年間3万人を超え、新卒の半数近くが相変わらず職を見つけられないが、大掛かりな抗議デモもストライキも起きない。社会保障制度が社会全体に安心感を与えているのだ。生活保護者の数は増え、高齢者は年金ライフを楽しんでいる。そんな背景が作用しているのだろう。国家非常時ではなく、平時だ、ただ少し景気が悪いだけだ、という程度の認識しかない政治家が多数を占めている。国会では東日本大震災からの復興に向けた2011年度第3次補正予算案に続き、復興増税法案が月内成立の見通しだ。さらに、野田政権は消費税率10%への引き上げを強行する構えだ。
■国全体が「茹で蛙」に
復興債償還財源に使う所得税の臨時増税は25年と長期にわたる。増税期間の引き延ばしの結果、1世帯当たりの所得税年間負担増は薄められ、財務省の試算では年収500万円の場合で1600円、800万円だと7360円という。野田佳彦内閣と民主、自民、公明の3党は「月にならすと負担額はコーヒー1、2杯分にすぎない」と納得したわけだが、甘すぎる。
経済とは先行きの予想で決まる。個人や企業は、明日、1週間後、ひと月後、あるいは来年、数年後を見越して、今消費するか、無理してでも貯蓄するか、投資するかを決めるものだ。
たとえ、わずかでも継続的なマイナス要因が延々と続き、付け加わるなら、経済活動は萎縮する。デフレ予想が続くならなおさらだ。デフレで所得が毎年着実に減っている上に、増税などで可処分所得はさらに減る。そうなら、家計は消費を、企業は投資を控える。カネは動かず、雇用は縮小の一途をたどる。税収は名目の国内総生産(GDP)の伸びに比例するのだから、増税によるデフレ効果が大きければ所得税収も法人税収も減る。サラリーマンどころか、日本国全体が茹で蛙になりかけている。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
◇
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講座番号 :3-4
講座タイトル:ドル基軸体制はいつまで続くか?
米国オバマ政権と連邦準備制度理事会は景気2番底回避のためには、ドル札の増刷を続けるしか方策がない。言い換えるとドル安政策の堅持である。その結果、基軸通貨ドルは脆弱になり、国際金融体制は崩壊するとみる向きもあるが、筆者はまだまだドル体制は続くとみる。円の日本没落はあっても、米国ドルは国際金融市場の中心であり続けるだろう。
講 師 :田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞特別記者
2011年12月14日(水) 19:00~20:30
産経新聞本社 会議室(東京都千代田区大手町1-7-2)
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TEL:03-3243-9828 FAX:03-3279-6342
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